三月二十六日、その日は最高気温が二十五度まで上がった異例の日だった。
 三月半ばには例年よりも暖かい日が続いていて、桜の開花時期も早まるだろうと言われていた。
 俺は、翠葉の入学式まで桜がもつといい――そのくらいにしか思っていなかった。



 土曜日の講義は午前の二時間で終わる。
 そのあとは、いつもと同じように高校時代の先輩のもとへ行くことになっていた。
 院に進むとは言え、そろそろ就職のことも考えないと……。
 そんなことを考えながら、大学と同じ敷地内にある高校へと足を向ける。
 藤宮秋斗先輩――俺の二個上の先輩は藤宮警備の跡取りで、今は高校の一室に職場を確保している。
 一年は本社に勤務していたものの、気づいたときには高校に居ついていた。