「ううん。車で送り迎えしてもらうくらいなら、少し早めに出て、もう少しゆっくり歩く。楽してばかりじゃ、いつまでたっても体力取り戻せないでしょう?」
「……じゃ、かばんだけ持つよ」
「ありがとう」
 ますますもってどうしようか……。
 間違いなく、翠葉は巣立ちの時期を迎えている。なのに、巣立たれる俺側にその覚悟がない。心の準備ができていない。
 校門を前に、
「坂道終わりっ」
 少し弾んだ翠葉の声。
 校門をくぐると、翠葉は一度止まってあたりを見渡した。声をかけようとすると、再度歩き始める。