「別に、賭け自体にはとくに意味はないし、賭けの勝敗で何かを取引する予定もない。俺は、翠が来るか来ないかを知りたかっただけだ」
 言うと、司はすぐにVIPルームから出ていった。
 緊張している彼女を目の前に、俺はとても穏やかな気持ちでいた。
 昨日、あの時間に湊ちゃんから連絡が入ったということは、きちんと外出許可を得てきたのだろう。だとすれば、ここまで送ってくれたのは蒼樹と唯。もしくは湊ちゃん本人か……。
 思いながら、俺は彼女に問いかける。
「それで……? 翠葉ちゃんは何をしにここへ来たの?」
 もう覚悟はできていた。どんな言葉でも受け止められる。
 彼女はもう一歩二歩と歩みを進めて俺の前に立った。俺も彼女と向き合うために席を立つ。
「あの……」
「うん」
「メール……送っても、返ってきちゃって……。電話もかからなくて……」
「うん」
「でも、伝えたいことがあって……。秋斗さんに、会いに、来ました」
「うん」
 聞かせて。君の気持ちを。