けど、口の動きが小さすぎて何を言ったかまでは読むことができない。
 察するに、どうして司がいるのか――そんなところだろう。
 「お嬢様、お入りください」
 立ち尽くす彼女に蔵元が声をかけ、彼女が室内に入ると、蔵元はこちらに一礼して出ていった。
 それから、翠葉ちゃんはゆっくりと三歩歩いて足を止めた。
「司の勝ちだな」
 彼女は来た……。もう、俺の負けだよ。
 戸惑いがちに口を開ける彼女に、
「今日、ここへ翠葉ちゃんが来るか来ないか、俺は来ないほうに賭けた。司は来るほうに賭けた」
「か、け……?」
「最初はそんなつもりなかったんだけどね、俺も司に嵌められた人間」
 彼女は意味がわからない、と言うように、不安げに瞳を揺らす。