リビングへ戻ると、
「栞さん、家まで送ります」
 栞さんの手を取ると、蒼兄の表情が固まった。
「手、かなり冷たいですけど……」
「貧血かな……。今回、生理痛がちょっと重くて」
 と、少し恥かしそうに笑った。
「とりあえず、こんなときくらいはおとなしく抱っこされてくださいね」
 蒼兄は栞さんを横抱きにして立ち上がった。
「翠、少しだけ鍋見てて」
 司先輩がキッチンから出てきて、そのまま栞さんたちと一緒に玄関を出ていった。
 私は言われたとおり、キッチンでカレーのお鍋が焦げ付かないようにかき混ぜる。
「彼、とても十七歳とは思えないよね?」
「はい。同い年だけど先輩で、でもそうじゃなくてもすごく頼りになる人だと思います」
「……リィは彼が好き?」
「はい。意地悪だけど優しいし、とても頼りになるから。一緒にいて緊張しない人っていうのかな……? 最初はすごく怖くて、隣にも並べなかったのに。おかしいですよね?」
 クスクスと笑うと、唯兄もにこりと笑った。
 唯兄とそんな会話をしながらキッチンに立っていると、このあとに起こることなんて何も考えずにいられた。
 それはただ、私が考えたくないだけだったのかな……。
 でも、ふたり並んで料理をするのなんて初めてのことなのに、まるで日常のことのように思えたの。
 本当に、なんの違和感も覚えない穏やかな時間に思えたの。
 唯兄は……唯兄はこのとき何を思っていたのかな。