御園生は何度も深呼吸を繰り返していた。
 ちょっと、見ててかわいそうになるくらいの緊張度合い。
 俺が大会や記録会で緊張するのとは別物なんだろうな。
 あれは自分との闘いで、御園生のこれは対人……。しかも、御園生は対人関係にトラウマを抱えているから、余計に苦しいんだと思う。
 でも、ここが踏ん張りどころなんだろうな。
 御園生は携帯を見ると呼吸が止まってしまう。そして、苦しくなると視線を引き剥がし、詰まってしまった呼吸を再開させていた。
 何回か同じ動作を繰り返したあと、
『佐野くん……お願いがあるの』
「……さすがに俺が電話するのは無理だけど?」
 御園生は肩を竦めて小さく笑った。