「俺、二度と秋兄らしくないことするなって言わなかった?」
「俺は俺らしいことしかしてないと思うけど?」
「どこが? 翠を傷つけることが? 違うだろっ。秋兄の専売特許は甘さだろっ?」
「……十分甘いつもりなんだけどな」
 俺は車内天井のランプに視点を定めた。
「司と過ごす時間が増えれば彼女は自分の気持ちをきちんと感じることができるはずだ。それは彼女が一歩踏み出すきっかけにはなり得ないのか?」
「……それ以前の問題。翠が一番恐れているのは、俺と秋兄のどちらかが自分から離れていくこと。それを率先してやるなんてどうかしてる。専門知識はないにしても、翠の病状くらいは理解してるだろっ!?」
「だからだ……。今の状況が長引いていいわけがない。そろそろ第一ラウンドを終わらせていい頃だ。何もかもがうまくいって円満解決なんてあり得ない。なら、長引かせないことも手段のひとつじゃないのか? 司はこのままでいてどうするつもりだった? ずっと葛藤を続ける彼女を側で見てるだけか?」