「秋兄の気持ちはわからなくもない。側にいて手に入らないのなら、手の届かないところにって考えもありだと思うから」
 コートに袖を通し、かばんを持つ。もう一押ししたらすぐに病室を出るつもりで。
「俺も翠の進級を見届けたら留学することにしたから」
 翠の眉根が寄せられた。
 そんな顔するくらいなら、言葉にしろよ……。
 側にいてほしいと言われたら、自分を求めてもらえたら、それに応える心づもりはあるのに――。
「九月編入に備えて四月には日本を出る。生殺しには耐えられない。それが、俺たちの出した答え」
 翠は何も言わずに涙を零していた。
 ……涙は言葉の代用にはならない。ならないんだ……。