「ごめん……私だけ、私だけで……」
「それにも納得はいかないけど……。翠が得をしているなら、なんで翠は今泣いている?」
「っ……」
「泣いてることにくらい気づけよ」
 涙を袖で拭おうとした翠に自分のハンカチを押し付けた。
「……俺も秋兄も諦めは悪いほうだけど、精神衛生上よからぬことは基本排除する性格で――」
 これ以上はもう言いたくない。だけど、まだ言うべき言葉は残っている。
 残っているけど……それを口にしたら自分の中で何かが音を立てて崩れていく気がした。きっと、心が軋むってこういうことを言うんだな。
 サイドテーブルに置いてあったメモ用紙に秋兄の仕事用回線の番号を記して移動テーブルに置いた。
「秋兄の仕事用回線。つながらないことはないはず――ただし、本人に出る意思があればの話だけど」
 出るか出ないか、五分五分。もしくは出ない線のほうが濃厚。