そうして、二十九日までパレスに滞在し、じーさんが病院に移るタイミングで俺たちも藤倉に帰ってきた。
 案の定、じーさんは肺炎を併発し、しばらくの入院を余儀なくされる。
 一方、翠は連日術前検査に追われていた。
 三十日の手術前になら会ってもいいという許可が下り、会いに行ったはいいが、心配なのに、俺は冷たく突き放すような言葉しか言えなかった。
 もっとほかに言いようがあっただろう。けれど、挑発するような、けしかけるような言葉しか出てこなかった。
 酸素マスクをつけ、苦しそうにしている翠を目の前に、自分を保つのが精一杯だった。
 少しでも気を抜いたら情けない顔になってしまいそうで……。
 きっと、ものすごく不安だろう。なぜ労わる言葉のひとつも言えないんだ……。
 早く楽になって、元気になって帰ってきてほしい。たかがそれだけのことがなぜ言えない。
 不甲斐ない自分に苛立ちを隠すことができなかった――。