閉じられた扉を前に、お父様の腕に右手を添える。
「安心した」
「え……?」
「無事に嫁に行ってくれて」
 にこりと笑ったお父様に少しムッとする。
「三十になっちゃいましたけどねっ」
「年は関係ないだろう? 私が安心したのは、この年になっても『お父様と結婚する』と言われなくて、だ」
「ぎゃっ」
 思わず飛び上がる。
 さっきお母様に言われそうになったのは無事に阻止できたのに、お父様が相手だとそれも敵わない。
「私の記憶が確かなら、初等部――」
「お父様っ」
 顔が点火してしまったかのように熱くなる。手に力をこめ、その先を言わないように懇願すると、チャペルのドア脇で控えていたスタッフに「ご入場です」と声をかけられた。