光のもとでⅠ

 重い鍵盤――弾き慣れない。
 白く重厚なそれに自分の両手を乗せる。
 まるでハープを弾くように、右手から左手へと主旋律を渡していく。
 高音から始まった旋律は、やがて地の果ての低音域へ突入し、最後は昇華するために高音へと駆け上がる。
 同じフレーズを何度も何度も違う音域で繰り返す曲は、たったの数分で終焉を迎えた。
 ……きちんと曲になった。
 今なら五線譜に書きとめられるだろう。
 そう思うと、常にピアノに置いてある五線譜に音符を記し始めた。
 即興演奏から二十分と経たないうちに一曲が出来上がった。
 久しぶりに高揚を感じていると、現実に引き戻すかのごとく、携帯の着信音が鳴り響いた。
 ……知らないアドレス。でも、件名には「翠葉お嬢様へ」とある。
 私のことを"翠葉お嬢様"と呼ぶ人はホテル関係者か蔵元さんくらいなものだ。
 メールを読むと蔵元さんからであることがすぐにわかった。