光のもとでⅠ

「ヒールのせいだね。いつもは姿勢がいいのに今は少し猫背で膝が出てる。まずはそれから直そう」
 グレーのワンピースに身を包んだ彼女の背に手を当てると、手から逃れようとするかのように背筋が伸び、膝も同様に伸ばされた。
「そう。静止時、体重は爪先でもかかとでもなく土踏まずのあたりにかける感じ。お腹に力入れて背は反らせない」
 言われたことを実践するのって意外と難しいと思うんだけど、彼女は実に優秀で、ひとつひとつを着実に正していく。
 背に浮かび上がる肩甲骨が、今にも羽が生えてくるんじゃないかってくらいにきれいに見えて、少し見惚れた。
「足を踏み出したらその足に重心を移す。上体は動かさない。膝下だけで歩こうとしない。脚の付け根から踏み出すように」
 いつだったか、蒼樹が言ってたっけ……。おじいさんが作ってくれた竹馬に一発で乗れた、と。ほか、一輪車に十分とかからず乗れるようになったとも聞いている。