現れた彼女は零樹さんに片手を預け、ひどく歩きづらそうに足元ばかりを見ている。
 なるほど……。唯の言った「ちょうどいい感じ」とはこのことか。
 彼女は珍しくヒールの高い靴をはいていた。
「おはよう」
 声をかけると、びっくり眼がこちらを向いた。零樹さんに預けている手ではないほう、右手には携帯が握りしめられている。
「今日は持ってるんだ」
 携帯を指して司が言う。
 それ、朝の挨拶とは言わないんじゃないか?
 思いつつも、司にしては珍しくも満面の笑みを貼り付けていたから、俺も同様の笑みを作って見せた。
「素敵な王子様がお迎えに来てくれたわね」
 碧さんが言いながら俺たちの前へ出て、翠葉ちゃんをガイドしていた零樹さんの手を取り上げた。