「ですので、今日は百歩譲って採血まではさせていただく予定です」
 物腰穏やかに口にしては、す、と立ち上がり足音のほうへと身体を向けた。
 そこには、母親と一緒に来たスイハが立っていた。
 俺の頭には捕食者被食者の文字が浮かぶのみ。
「どうして……」
 スイハは言いながら後ずさる。
 ま、そのくらいには嫌われてんだな。人としてではなく、医者として。
「そうですねぇ……挨拶、ですかね?」
 涼先生は先日と同じ手法を繰り出した。即ち、挨拶と言って右手を差し出す。
 しかし、さすがのスイハも今日はそれには応じない。
「……いえ、あの……もう胃カメラの予約入れられてしまったし、逃げませんから……」
「ですが、身体は後退してるように見えますが?」
「いえ、そんなことは……」