「朝陽なら俺がランニングから帰ってくる六時でも間に合う」
 翠葉は俯いて黙り込んでしまった。
「翠葉?」
「時間を……無駄に過ごしたくないの。冬の寒さを感じたい。霜の降りた土を見たり、草についた露を見たり、外の空気を吸いたい」
 それらを見るのが楽しみというよりも、何か思いつめた目をしていた。
「昨日も訊いたけど……何かあったか?」
「……ごめん、上手に話せない――」
 ……今が訊き時、かな。
 俺は後ろ手にドアを閉めた。
「上手になんて話さなくていいよ。聞く時間がないわけじゃないし」
 翠葉の背がかすかに上下した。人が呼吸をするときの動きで。
「あの、ね……泣きたくないの。自分が弱いせいで……泣きたく、ないの」
 まるで絞り出したような声で言う。
「今日はランニング休むよ」
「それもやなのっ」