目覚ましが鳴り、頭上のそれに手を伸ばしてパシッと止める。
 この季節だけは布団の誘惑に負けそうになる。
 あたたかな布団は甘美なぬくもりを武器に「今日はやめたら?」と訊いてくる。その誘いを振り切るべく、ベッドから抜け出るのが冬だけに与えられる試練。
「……起きる、起きる、起きる――」
 バッと身体を起こし、ぬくもりの魔手から逃れるように立ち上がる。手短にランニングへ行く支度を済ませると部屋を出た。
 階段を下りようとしたとき、翠葉の部屋から一筋の光が漏れていることに気づく。
 ……起きてるのか?
 静かに階段を下り控え目にノックをすると、「はい」と返事があった。
 そっとドアを開けると、翠葉はすでに着替えを済ませ、ヒーターの前で飲み物を飲んでいた。