「毎朝十キロ走るのは中学のときの習慣だから別になんともないけど……唯も走ってみるか?」
 爽やかさを全面に押し出し誘われても断固拒否。絶対やですっ。
「全力で遠慮させていただきますっ。一メートルたりとも走りたくございませんっ」
 ガンガンに走って来たあとだっていうのに、ミスター爽やかの息遣いはそこまで荒くない。呼吸は規則正しく、多少大袈裟に息をしている程度。それは少しずつ音が小さくなり、気づけば通常のそれとなっていた。
 あたりはまだ暗く、公園の外灯もついたままだけど、この暗く重い感じは周りの景色に付随するものじゃない。
 さて……誰がこの空気を看破する? 俺? 俺ですか?
 心の中で押し問答していると、ミスター爽やかがあんちゃんに戻って口を開いた。
「翠葉。さっきも言ったけど、別に上手になんて話さなくていいよ? 聞く時間はたくさんあるから」
 リィが口を開くまでには少し時間がかかった。