「ちょっとお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」
 そう言って音も立てずに現れたのは、この病院の重鎮といえる人間だった。
 経営を見ながら患者の診察や手術もこなす切れ者――藤宮涼。
「かまいませんよ。ですが、どうしてここに?」
「今日は御園生さんがいらっしゃる日だとうかがいましたので」
「あぁ……あと数分もすれば来ると思いますが」
「先日、嘔吐していたことはご存知かと思いますが、そのあと受診していただけませんで。こちらとしましては胃カメラを呑んでいただきたいのですが、何か秘策はありませんか?」
 にこやかに訊かれた。
「あ~……その顔を使うってのはどうでしょう?」
「この顔、ですか?」
「はい。スイハはたぶんその顔が好きだと思いますよ」
「そうですか。いいことを聞きました。では笑顔でゴリ押ししてみましょうか」