「……そんなの考えたくないっ」
 秋斗さんが亡くなるなんて考えたくないっ――。
「……は、翠葉」
 気づけば肩を揺さぶられていた。
 私は両耳に手を当てたまま目を固く閉じていたらしい。
「ごめん……」
 床に膝を落とした先生は抱きしめてくれた。
 既視感を覚えたけれど、そんなことはどうでも良かった。
「すごく怖がらせてると思うわ。でもね、若槻に会う前に、翠葉にも心の準備をさせないといけないと思った。……若槻が抱えているものはそういうものなの」
「……はい。事前に少しでも知ることができて良かったです。でも――怖い」
 しゃくりあげるものをどうすることもできず、必死で抑えようとした。
「今は泣いちゃいなさい。この学校、健康優良児ばかりなうえに、みんな勉強好きだから、めったに保健室に来る人間はいないのよ。おかげで私の楽園」
「……ふふ、それっていいのかな」
 相変わらず泣き笑いのまま口にすると、
「いいんじゃない? 健康っていうのは悪いことじゃないわ。保健室や病院が繁盛しちゃう世の中なんてろくなものじゃないわ」
 湊先生らしく、カラカラと笑う。