空には雲ひとつない青空だった。
「蒼兄にとって、私は必要な要素なんだそうです。その意味が私にはよくわからなかったのだけど、でも、今なら少しわかる気がします。唯兄は私に必要な要素だと思うから……。だから、がんばりたいです」
「うん」
「でも……本当は少し怖い。少しっていうのは見栄で、本当はすごく怖いです」
 湊先生は何も言わずに聞いてくれる。
「ずっと探していたものがひょんなことから目の前に出てきたとき、人は何を思うのかな、って考えました。それが普通に探していたものなら想像ができます。驚くんだろうな、喜ぶんだろうな、って。でも、それを探すことを生きることの支えにしていたとしたら、なんてことは考えられない、想像が追いつかないんです」
「翠葉……携帯のストラップ、それがなくなって秋斗も姿を消したらどうする?」
 淡々とした声だった。
 まるで、一定のリズムが拍を打つような、そんな声。
「それは――」
 嫌な汗が背中を伝う。
 額にも滲んでいるのがわかるくらいだ。
「若槻にとってのオルゴールってそういうものなんだと思うわ」
「……先生、どうしよう。最初から怖いって思っていたけど、もっと怖くなっちゃった――」
 半分泣き笑い。
「そのうえ、妹はもう亡くなっているのよ……」
 無機質な声だった。感情の入る余地がない声。