「今から帰る?」
 御園生はまたひとつ頷いた。きっと、俺の周りにいる人間の数に気後れしているんだろう。このままだと一歩下がられてテラスから見えなくなりそう。
 そんなことを想像し、さらに言葉を投げかけた。
「もう遅いから送ってく。七分で着替えてくるからちょっと待ってて?」
「えっ? いいよ、悪いよ」
 か細い声が届くと、「あ、喋った」と周りの連中が騒ぎ始めた。
「俺、あの子が話す声って生徒総会での会計読み上げと紅葉祭の歌しか聞いたことないんだよね」
「何、普段喋んないの?」
「レア? 超レア? 俺たちラッキー?」
「佐野、紹介しろよ」 
 あれこれ言われてちょっと困る。俺が困るというよりも御園生が困るだろう。
「これも一回頷くだけで良かったのに」
 ちょっと零してみたけれど、御園生には聞こえただろうか。
 とりあえず、この暗くなった時間にひとりで帰すのは問題あり。