「かばん持ってこさせたから起きれるならお弁当でも食べなさい」
 湊先生に言われ、ゆっくりとベッドを下りた。
 点滴スタンドを押してカーテンを出ると、白いテーブルに自分のかばんが置かれていた。
 かばんがここにあるということは、このまま帰れるということ。
 それは、教室に行く必要がないということもあり、心配をかけた海斗くんや桃華さんに会うこともないことを意味していた。
 そんなことを考えながらかばんとは別のランチバッグからお弁当箱を取り出した。
 久しぶりにちゃんとお弁当箱。
 ちゃんとお弁当箱、という表現もおかしいけれど、でも、ちゃんとお弁当箱。
 サーモスステンレスのトールサイズとか、そういうのではなくて、ちゃんとお弁当箱。
「相変わらず食べる分量少ないわね」
 先生に言われつつ、卵焼きを口に運ぶ。
 出汁巻き卵が美味しい。ほうれん草の胡麻和えが美味しい。
「でも、嫌々食べてるわけではなさそうだから、栄養にはなるか」
 湊先生はそんなふうに口にして、ちょっと意地悪に笑ってみせた。
「椅子、つらくない?」
「正直、少しつらいです」
「さっき床は掃除しておいた」
 言うと、どこからともなく大き目のクッションを持ってきてくれ、床に置かれた。