「うん……。私はそれを見ることができるんだなって。写真の中の桜じゃなくて、ここの桜を毎日見ることができるんだなって……。もしかしたら来年も同じ桜を見ることができるのかもしれないと思うと感慨深くて……」
 肩を竦めて見せると、蒼兄はなんともいえない顔をしていた。
「蒼兄、あのね……去年までは一週間先、一ヶ月先のことが不安で仕方なかった。二年生になれるのかもわからなくて、卒業なんて考えることもできなかったの。でも、今は違う。来月には梅香苑の梅が咲くことを想像するし、梅の香りが漂う苑をお散歩したいと思う。三月終りには桜が咲くから、桜香苑の桜を写真に撮りたいと思う。四月になって新学期が始まったら、新しい友達ができるのかなって……。未来がとても楽しみになった。こんなこと、初めてなの」
 隣を歩く蒼兄を見上げると、頬に涙が伝っていた。
「蒼兄……?」
 蒼兄はすぐに涙を拭い、「なんでもない」と私の手を取った。