「……じゃ、かばんだけ持つよ」
「ありがとう」
 私は蒼兄にかばんを預け、残りの坂道を歩いた。
 校門をくぐれば平坦な道になる。迎えてくれたのは、葉をすべて落とした桜並木。
 たかだか一ヶ月ちょっと見なかっただけなのに、何もかもが懐かしく見えて仕方がない。
 懐かしくて、愛おしくて――学校にそんな思いを抱く日がくるとは思ってもみなかった。
「蒼兄……学校って楽しいのね?」
 春にはまだ遠く、土には霜が降りている冬だというのに心はほかほかとあたたかい。
 桜の木を見上げると、「どうした?」と蒼兄に顔を覗き込まれる。
「……葉っぱも何もないけれど、これから少しずつ新芽が出てきて、それが伸びて膨らんで、そうして花が開くんだなって……少し、想像しただけ」
「想像……?」