「……わかった。殴るのはあとにするわ。じゃ、私たちは隣のラウンジにいるから、終わったら電話――」
 先生は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「私の携帯壊れたから蒼樹か若槻に連絡しなさい」
「はい……」
「じゃ、あんたたちはこっち」
 壁際に並ぶ警備員さんの前を通り、湊先生は蒼兄と唯兄を伴って隣のラウンジに入っていった。

 このドアの向こうに秋斗さんがいる――。
 ドアのセンサーが反応しないギリギリの位置に立ち、何度も深呼吸を繰り返した。
 何から話そう……。何から……――だめ。何も考えちゃだめ。じゃないと、このドアの向こうへ行けない。歩け……歩け、翠葉――。