「そう。日本を発つ。……JAL7008便六時五十分発。仕事で海外へ行く」
 仕事、という言葉に刺激を受けて、カタカナが漢字に変換された。
「ほっとしたように見えるのは気のせい?」
 訊かれてドキっとした。
「安心したように見えるけど、それはどうかと思う。秋兄は当分帰ってこない。秋兄との連絡が途絶えても翠が動かなかった代償だ」
 思わず目を見開いた。自分でもわかるほどに大きく。
 ツカサは無表情で、いつもと変わらず単調に話す。言葉以外のものから何か情報を得ることができない表情。
「秋兄の気持ちはわからなくもない。側にいて手に入らないのなら、手の届かないところにって考えもありだと思うから」
 ツカサはコートを羽織ってかばんに手をかけると、
「俺も翠の進級を見届けたら留学することにしたから」