続いて鼻のチューブを抜かれることになったけれども、痰が肺に溜まっているらしく、チューブを抜いたあとは自力で少しずつ痰を出すように言われた。
「痰を出すとき、ちょっと傷が痛むかもしれないけど、少しずつ出してね」
 言われて、「痛み」という言葉に反応している自分に気づく。
 ちょっと怖い。自分が。
 痛いのは嫌いなはずなのに、手術を受けたらなんとなく貴重なものに思えるようになっていたとか――私、変……。
 しかし、そう思っていられたのは二時間くらいのものだった。
 まだ右脇には二本のドレーンがついている。右胸腔、心嚢から廃液を流すためのもの。これを回収するときに突き刺さるような激痛が走った。
 これは痛い……などと冷静に痛みを感じている自分がおかしかったけれど、これがあと何回続くのか、と考えればそんな余裕はすぐになくなった。
 この日の夜は昇さんと栞さんが病室に泊まりこんでくれ、痛みが出たら麻酔を流し、数時間おきに廃液の回収をしてくれた。
「今日は眠れないかもな?」
 と言った昇さんの言葉は正しかった。