たとえば、転んでできた傷や何かにぶつけて痛いと感じること。それらと、普段私が感じる痛みは全くの別物で――だから、痛いのにどこか新鮮で、その「感覚」を少し味わおうと思ってしまったのだ。
 ところが、「痛み」というのは血圧に表れるものらしく、すぐに楓先生に気づかれてしまう。
「ねぇ、翠葉ちゃん……ひょっとして麻酔切れてきてない? ――切れてきてるよね……? 痛み始めてるよね……?」
 疑いの眼差しで尋ねられ、私は少しだけ笑みを沿えて、「なんのことでしょう?」という表情を作ってみた。
「あのね、血圧見てればわかるのっ。そういう我慢はしなくていいし嘘はつかないっ」
 楓先生には珍しく、少し荒げた声で叱られた。
 もう少しこの痛みを感じていたい気はしたけれど、即座に麻酔を流されてしまった。
 別に痛いことが好きなわけではない。どちらかと言うなら嫌いだ。
 でも、何かを感じられること自体がすごいことだと思ったから――麻酔から醒めた今だからこそ感じていたかっただけ。「生きている」と実感したかっただけ。
 もし、説明できたら楓先生はわかってくれたかな……。