あれほど丁寧に久住先生が説明してくださったにもかかわらず、私は受けた説明のほとんどを忘れていた。
 そんな自分に面食らっていると、楓先生に笑われた。
「大丈夫、時間が経てば治るから。それに、患者さんってみんなそんな感じだから。手術前に詳しく説明を受けていても、たいていは緊張していて全部を覚えている人なんてごく稀なんだ」
 言われて安心する。
 安心したらなんだか痛い気がした。
 右脇が痛い……。
 麻酔が切れる、とはこういうことを言うのだろうか。
 すぐにナースコールを押してもよかったのだけど、私は押さなかった。
 しばらくの間、メスで切られたであろう右脇の傷の痛みを堪能した。
 なんというか……とても久しぶりだったのだ。物理的な痛みが。
 今まで私が感じてきた痛みとは種類が異なる。はっきりとそれを感じる。