ぼんやりと意識が浮上する。
 頭の中は霞がかっていて、目を開けても開けなくても同じような気がした。
 苦しい……。
 口に何かかぶせられているのか、だから苦しいのか――。
 耳を澄ますと、少し離れたところからサーという音が聞こえ、また反対側からは人の声が聞こえた。
「それではこちらにサインと捺印を」
「はい」
 この凛とした声は藤原さん。それに答えたのはお父さん。
 目を開けると、すぐ近くでお母さんの声がした。
「先生っ、翠葉が……」
 間もなくして私を覗き込んだのは白衣を着た紫先生だった。
「気分はどうだい?」
 気分……。
 気分がどうというよりも息苦しい。胸が、とても苦しい。