ジャケットに残るぬくもりがひどくあたたかく感じる。
「翠葉ちゃんが地下回廊を走っているとき、モニタリングしてる警備員から連絡が入った。君がカメラに向かって話した情報はすべて伝わっている。ついさっき、紫さんと栞ちゃんが別ルートでレストランに向かったから大丈夫。安心して」
「大丈夫」の意味がわかってほっとした。ほっとしたら、それまで気づかなかった自分の異変を強く感じ始める。
 どうしてこんなに寒いの? 館内は空調がきいているはずなのに、どうして……?
 呼吸が乱れて胸が苦しいことには気づいてた。でも、こんなにも寒かっただろうか。こんなに手足は冷たかっただろうか。走っているときは汗をかくくらいに暑かったはずのに。……どうしてこんなにも気持ち悪いのだろう。どうして――。
「秋斗様、こちらへっ。ストレッチャー用意してありますっ」
「湊ちゃんはまだっ!?」
「先ほど会場を出られました。すぐお越しになられますので先に医務室へっ」
「翠葉ちゃん、もう少しだけがんばってっ。すぐに湊ちゃんが来るから」
 遠い……。すぐ近くにいるはずの人の声がどんどん遠くなっていく。
 そこでようやく気づいた。自分の状態の悪さに――。