「翠葉ちゃん、落ち着いて」
 落ち着けるわけがない。
 言葉にならないもどかしさから、手に持っていたカードと手ぬぐいを秋斗さんに押し付けた。朗元さんの所持品とわかるものを。
「翠葉ちゃん、わかってるから。大丈夫だから」
 焦って声を発しようとするたびにひどく咽る。
 警護の人も秋斗さんも大丈夫と言うけれど、何が大丈夫なのか、どう大丈夫なのか、それを知りたい。教えてほしい。
 涙が止まらない。胸が苦しい。
「少し落ち着きなさい」
 いつもとは違う、ピリっとした厳しい口調で言われた。
 秋斗さんはスーツの上着を脱いで私にかけると、
「翠葉ちゃん、場所を移動する。ちゃんと状況を説明するからおとなしく言うことを聞いてほしい」
 秋斗さんは私を横抱きに抱え上げ、今私が走って来た道を戻り始めた。