こんなふうに走るのは久しぶり。その場に留まる空気は自分が走ることで風のように感じ、足裏には硬く冷たい廊下の感触。廊下を蹴る振動が脚から腹部へと伝い、肩や腕に痛みが散る。思っていたよりもずっと、身体中が軋むように痛んだ。
 スタッフを見かけたらその人に話せばいい。そこまで走れればそれでいい。
 そう思っていたのに一向に人と遭遇しない。ようやくスタッフを目にしたのはステーションの真下まで来てからだった。
 人はところどころにいるのに声をかけられる人がひとりもいない。みんな忙しく動いていて、声をかける隙がない。
 何より致命的だったのは、息が上がりすぎた自分が人に声をかけるタイミングを全くつかめなかったこと。