エレベーターに乗り込み両開きの扉の中心をじっと見つめる。
 ドアが開いたら、今度こそ御崎さんがいるのではないか――。
 朗元さんから受け取ったカードと手ぬぐいを握る手に力が入る。
 けれど、扉の前には誰もいない。回廊は、パレスに人がいるのかを疑うほどにしんとしていた。
 コンクリートむき出しの壁と一定の角度のカーブ。それらは進めど進めど何ひとつとして変わることがない。しだいに、自分の歩く速度がそんなにもゆっくりなのかと思い始め、無機質な足音に不安を煽られる。徐々に歩調は早まり心臓が同調し始める。けれど、逸る気持ちに足が伴うことはなかった。
 無理――このヒールじゃ走れない。
 一度歩みを止め、靴を脱いで走り出す。