「お嬢様、会長がお呼びです」
「え……?」
 まさかあの人だかりの中へ行かなくてはいけないのだろうか。
 出てきたばかりの会場を振り返ると、自然と口元が引きつった。
「会場ではございません。会長は休憩のため、一時的に退室なさっています」
「……今はどちらに?」
「レストランにいらっしゃいます」
「じゃ、俺も一緒に行く」
「申し訳ございません。会長よりお嬢様おひとりで、と承っております。レストランまでは私が責任を持ってお連れいたします」
 唯兄は息を長く吐き出した。
「リィ、ごめん……。この人、俺には突破できないっぽい。なんか、澤村さんと同じ匂いがする」
 意味のわからないことを言うと、
「ゲストルームにいるから行っておいで」
 と見送られた。