わずかに視線を逸らした仕草が人を探しているように見えたのか、
「御園生さん……いえ、お母様の碧さんには先に会場へ向かっていただきました。ご家族も皆、すでに会場へいらっしゃいます。よろしければこのままエスコートさせていただきたいのですが……」
「……お願い、します」
 ぐぎぎ、と音が鳴りそうなくらい不自然な動作で首を戻す。と、クスリと笑われた。
「そんなにかしこまらないでください。何しろ、あなたは特別招待客なのですから。ほかの誰を気にする必要もありません」
「あの、特別招待客って……なんでしょう?」
「義父の誕生日である今日、藤色の衣装を身に纏えるのは現会長と次期会長の許しがある人だけです。その数はとても少ない」
 階段の踊り場に出ると、下のフロアを見るように促された。