「どうぞこちらに、お姫様」
 いつの間に取られたのだろうか。身体の脇に下ろしていたはずの右手は秋斗さんに取られていた。
 秋斗さんはその手を顔の高さまで持ち上げると自分の頬に寄せた。
「冷たい手だね」
 私がびっくりしていると、
「はーい、秋兄ストーップ。我らが姫君、翠葉姫はこっちで預かりましょー?」
 いつかのように、海斗くんに回収される。
 背中は海斗くんにピタリとくっつき両肩には大きな手が乗っている。けれど、それが海斗くんのものとわかると安心こそすれ、不安に思ったり逃げたいという感情は生まれない。
「ふーん……。これはちょっと面白くないかな。けど、静さんに強制退場を宣告されるのはもっと面白くないからね。今は引く」
 言いながら手を放し、秋斗さんは不敵に笑った。