「どうして教えてくれなかったの?」なんて言うつもりはなかった。
 人が教えてくれなかったから知ることができなかったわけではない。「朗元」以上のことを尋ねなかったのは私。それ以上を知ろうとしなかったのは私なのだから。
 何においても「今さら」なのだ。

「ひとまず置いておく」というのは思っていたよりも難しかった。どうしても意識がそちらへ向いてしまう。何度、目の前にあるものを見ようとしても、意識だけが逸れていく。
「リィ」
 隣に座る唯兄にそっと声をかけられた。
「フロア、見てごらん?」
「え……?」
 唯兄は苦笑し、
「意識をこっちに戻すため」
 はっきりとそう言われた。
「いい? 入り口から時計回りね」
 唯兄の声を意識しながらフロアを見回す。と――。
「……いない」
 フロアには朗元さんの姿がなかった。