膝の上できつく握りしめていた手をほどき、さすり合わせる。
 何をこんなに緊張しているのか……。
「やっぱりなんでもない」と言おうとしたら、
「会長が朗元さんであることは知っていたわ」
 訊こうと思っていたことを一息に言われてしまった。そして、
「知ってて黙ってた」
 正面に座るお母さんは真っ直ぐ私を見て言った。
 私がどんな反応をしようと、どんな言葉を返そうと、この眼差しは変わらないのだろう。訊けば、黙っていた理由も教えてもらえると思う。でも、それが今である必要はない。
 そう思えば、首を縦に動かし頷くだけで十分だった。
 もともと、少し気になったから訊きたかっただけなのだ。知っていたのか知らなかったのかを。
 訊く前に答えがわかってしまったから訊かなかっただけで、その質問の先に何を言おうと思っていたわけでもない。