バージンロードを挟んだ向こう側。前から二列目に黒髪の人が立っている。
 よく知っているはずのに、まるで知らない人みたい――。
「リィ、どうかした?」
 唯兄に話しかけられても反応できなかった。
「あー……司っち? あれは……どんな心境の変化だろうね? 髪、ツンツン。性格を髪型で表してみましたって感じ?」
「やっぱり、ツカ、サ……?」
 視線を固定したまま訊くと、
「うん、間違いないっしょ。ってか、リィ……鏡見せてあげたいくらい真っ赤なんだけど」
 指摘されて思わずその場にしゃがみこむ。椅子に座るのではなく、前列のチャーチチェアの影に隠れるように床にしゃがみこんだ。
 ゴツ、とチャーチチェアに頭ぶつけて痛かった。
 ぶつけた場所を手でさすりながら、そんな状況でもなおツカサの後ろ姿を盗み見る。
 いつもと違う格好にいつもと違う髪型。後ろ姿ですら格好いいと思ってしまう。
 目が離せない……。ツカサの後ろ姿に貼り付いたまま剥がせない。
 どうしたら、どうしたらいいのかな……。