異論を唱えたのはただひとり。
「えっ、ちょっ、碧さんっ!? 俺、せっかく蒼樹と唯にジャンケン勝って翠葉のエスコート権獲得したのに!?」
「あら、私が相手じゃ不服なの?」
「やっ、そういう意味じゃなくてですねっ!?」
「父さん、うるさい」
「零樹さん、相変わらずリィ大好きだね~」
 笑い声や話し声との距離が開く。
「待って」と言いたくても、家族との間には秋斗さんとツカサという大きな障害があった。
「翠葉ちゃん、早く行かないと朝食に遅れるよ?」
「慣れないってヒールの高さ? 必要ならどうぞ」
 右に秋斗さん、左にツカサ。ふたつの手を目の前に、私は何を考えるより先に謝っていた。