「俺、パースっ。だって、マナーとかそういうの詳しくないもん」
「別にマナーの勉強させようっていうんじゃないよ。だから唯もちょっと考えてみて」
 早々に戦線離脱しようとした唯兄に声をかけ、家族の輪に戻したのはお父さん。
 まるで、首根っこ掴まれてひょいっと持ち上げられた猫のよう。
「考えるって言っても――」
 唯兄は口をとがらせブツブツと口にする。
「座敷かなんかで上座下座があるならともかく、レストランだからそれはないんでしょ?」
「そう。ないんだ」
 お父さんは嬉しそうに答える。
 次に口を開いたのは蒼兄。
「通常、レストランなら壁際に女性、通路側に男性。より美しい景色が見える側に女性をってレディーファーストの概念もあるけれど、今日のテーブルセッティングだと――」
「それもなかったな」
 やっぱりお父さんがご機嫌で答える。