光のもとでⅠ

「……私たち、若槻の周りにいる人間が彼について知っていることはものすごく少ないの。それは若槻が話さないから。ただ、妹にあげたオルゴールをずっと探していることはみんな知ってるわ。そして、あの小さな鍵を肌身離さず持っていることも」
 だから、私が鍵を持っていると知ったとき、すぐに唯兄に連絡したのね。
「知っているといってもそのくらい。でも、そのオルゴールがどれほど若槻にとって大切なものなのか、それは数年間若槻を見てきて知ってる。たぶん、アキレス腱みたいなものだと思ってる」
「……アキレス腱?」
 湊先生の真っ直ぐな目が怖い。
「そのオルゴールに執着しているから生きている。……そんな節があるのよ。だから、オルゴールを渡した直後に若槻をひとりにするようなことは避けたい」
 視線を逸らさずにそう言われる。
「先生、怖い……そんなの怖すぎる」
「わかってる……。すごく重いわよね。でも、翠葉にとって若槻はもう大切な人じゃないの?」
 まだ知り合って数日。普通に話せるようになって数日。
 でも、大切か大切じゃないかに時間は関係ない。
 私の中では、すでにもうひとりのお兄ちゃんになっている。