光のもとでⅠ

 怒りや不満といった感情ではないけれど――つらくなると、苦しくなるとピアノが弾きたくなる。
 ハープより長く弾いてきていることもあって、より自由に自分を表現できるこの子を弾きたくなる。
 弾き慣れた、軽めの鍵盤を何度となく沈めては音を鳴らした。けれど、どうしても感情を逃すことはできなかった。
 意識して、短調や暗い曲を選んで弾いても自分の感情を旋律に乗せることができない。
 かといって、明るい曲調や好きな曲は最後まで弾き切ることができない。
 心の拠り所とも言えるピアノを弾いているのに、ピアノと一緒になれない。一体化できない。集中すらできない――。
 こんなときに弾けるのはハノンくらいなものだろう。
 単調なフレーズを延々と繰り返す。繰り返し弾いては転調させほかの調で弾く。
 ぼーっと……時間の経過も気にせず、指が動く限り、痛みに耐えられる限り弾き続けた。