「ほら、ゆっくり立って?」
 差し伸べられた手に戸惑う。
「身動きもできないくらいに冷えちゃったかな?」
 笑いを含む声が降ってきて、両腕を優しく掴まれ立たされた。私は促されるままに小屋を出る。
 秋斗さんは平然と小屋の鍵を閉め、「用務員室に行こう」と数メートル離れた建物を指差した。

 用務員室に入るのは初めてだった。
 小学校や中学校にもあったけど、藤宮のように鉄筋コンクリートの建物ではなく、木造建築平屋建ての印象が強い。
 建物内の室温は二十度前後で外よりは格段にあたたかかった。
「外は寒かったでしょう」
 差し出されたお茶を前に躊躇する。けれど、鼻をかすめた湯気にほっとした。お茶は麦茶だった。