「見るだけ」の観察を終え、ヤギさんの小屋へ移動。
 小屋ではヤギさんが横たわっていた。アイボリーよりも少し茶色っぽい毛。
「ヤギさん」
 声をかけると、瞑っていた目をゆっくりと開く。視線が合うとむっくりと立ち上がり、こちらに寄ってきた。ヤギさんの視線は私の一点を見ていた。
「え? 何……?」
 視線をたどると、そこにあるのは私の手。
「あ……もしかして何かもらえると思っちゃったのかな? ごめんね? 何も持っていないの」
 手を振って何も持ってないことを伝えると、もう一度目を合わせてからプイっと方向転換。先ほどと同じ場所に横たわると、今度は私とは反対を向いて寝てしまった。
 心の中で思う。ヤギさん、つれない……。