公道から私道に入ると坂道の両脇は常緑広葉樹が植わっている。年中通して緑の葉を絶やさないので、風景の変化はあまりない。坂を上りきり校門をくぐると、大半の葉を落とした桜並木に迎えられる。陽を遮る葉はないものの、空から届く陽光は弱い。
 時折吹く強い風は、落ち葉をひとつ残らずきれいに舞い上げた。くるくるくるくる――小さな竜巻がいくつか起こり、風が落ち葉たちを連れていく。
 そこら中にあった暖色の葉は、並木道から少し外れた場所へと移動した。目の前から葉がごっそりなくなると、色彩的に寂しい気がした。

 いつものように昇降口で上履きに履き替え、二階へと続く階段を上る。
 八時前の校内は静かだ。そして、七時五十分から空調が稼動するため、まだ寒さの名残がある。
 あと二十分もすれば校舎は生徒でいっぱいになるだろう。その頃には、空調管理の徹底された空間になっている。