「お父さんとお母さん、学生結婚だって言ったじゃない?」
「え? あ、うん」
「静にもたくさん助けてもらったけど、今の会長にはそれ以上に助けてもらったしお世話になったのよ」
 ゴホゴホッ――お茶が気管に入って咽る。そのくらい驚いた。
「ちょっと、大丈夫?」
「んっ……ゲホッ、ゴホッ……」
 何度か咳払いをして、少し楽になったところで冷たいお水を飲んだ。私が落ち着いたことを確認すると、お母さんは続きを話す。
「昔は今ほど学生結婚に理解なんてない時代だったから、両親を説得するのにも時間がかかってね」
 懐かしむように話すお母さんの視線は窓の外へと向いていた。
「認めてもらえるまで帰らない、なんて啖呵切ってもどこに行けるわけでもなくて、見るに見かねた静がマンションの一室を貸してくれたの。……実は、零の就職は会長のお口添えで入社できたようなものなの。私が出産して割とすぐに仕事を始められたのも何もかも、今の私たちがあるのは会長のおかげなのよ。……そうね、今度アルバムでも見ながら昔話しようか?」