あの中に入ったら、私はすぐに立ち止まってしまうだろう。私には――人とぶつかってまで目指したいと思える場所がない。
 みんなが真っ直ぐ進めるのは、ふらついても歩みを止めることがないのは、きっと目的地がはっきりとしているからだ。対岸に着くことはもちろん、その先の目的地もちゃんと見えている気がする。
「翠葉、何飲む?」
「ホットルイボスティ……」
 答えた声は心の状態を示すように不安定で、響きに芯のない小さな呟きだった。
 そのあとも、ずっとスクランブル交差点を見ていた。
 飲み物が運ばれてきて、ようやく正面に座るお母さんの顔を見る。
「お母さん」
「ん?」
「結婚式翌日の予定、訊いてもいい?」
 結婚式の翌日は、ツカサたちのおじいさんの誕生日パーティーだという。それに私たちは出席するのだろうか……。